2008年7月19日にスタジオジブリのアニメ映画『崖の上のポニョ』が劇場公開されました。こちらの作品は約1,200万人を動員し、興行収入約155億円を達成しました。これまでのジブリ作品の中では4番目に高い人気を誇った作品となりました。
『崖の上のポニョ』に登場する少年のそうすけは、なぜか母親のリサと父親の耕一のことを呼び捨てで呼んでいます。このことについて、『崖の上のポニョ』を見た人からは以下のような感想が述べられています。
そうすけ君、母親を呼び捨てするとはどういうことだ!って思ってたな。。
— Makihara (@haramakihara) February 5, 2010
「そうすけ」が「りさ」と呼び捨てなんだけど。この二人、親子じゃないの?
— 彦左衛門 (@hikozaemon) February 5, 2010
そうすけ、実の母をリサって呼び捨てにしてるのやばいな
どういう関係?笑— ヴッ (@NSSH_3746) August 23, 2019
このように、実の両親を呼び捨てするのに批判的に感じた意見や本当に実の親子か怪しむような発言が多くみられました。なかなか両親を呼び捨てで呼ぶ家庭というのは一般的ではなく、お父さんやお母さんと呼ぶ家庭が一般的でしょう。
本当になんの考えもなく呼び捨てで呼んでいるのなら、誰しもちょっと希薄な関係の家族だと感じてしまうでしょう。
本記事では、なぜそうすけが両親を呼び捨てするのかについて分析していきます。
そうすけが両親を呼び捨てすることに対する宮崎駿監督の考え方
2008年の日本の時代背景
この謎を解き明かすためには、宮崎駿監督がこの頃考えていた日本の時代の変化について触れていく必要があります。
それまでは家族とは温かさの象徴であり、お母さん、お父さんという呼び方に特別な絆が込められていました。
『崖の上のポニョ』が公開された2008年というのは日本の家庭や社会情勢、地球環境等を見直す傾向が見られ始めた時期でした。それまで以上に個人個人が能力を発揮することが必要と考えられ始め、考え方という視点で日本の時代の変化の片鱗が見え隠れしたところに宮崎駿監督は着目していたことを、『崖の上のポニョ』のプロデューサーの鈴木敏夫さんが示唆していました。
宮崎駿監督がそうすけを通じて伝えたいこと
そうすけに似てる pic.twitter.com/xcOtmHZywA
— いのけ - (@KEITO_IN) September 9, 2020
鈴木敏夫さんのインタビューで、宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』の登場人物に対する思いを語っていました。
そのインタビューで、宮崎駿監督は家族とは言えどあくまで一個人としてそうすけを自立した人間の象徴として表現させるために両親を呼び捨てにさせていると述べています。また、そうすけに呼び捨てで呼ばせているのは母であるリサであることも公言しています。
つまり、若くして自立心を養ってほしいリサの思いからできたそうすけの人物像だと言えます。
なかなかそうすけのような5歳の子供に自立心を伝えることは難しいと思いますが、この先の時代を築いていく若者には、これまで両親たちのような大人が築いてきた技術や環境をよりよいものに進化させていくことが求められてきます。
そうなった時、より優れた人材になるためには少しでも早く今の大人たちを超える武器を持つことが大切になってきます。その前段階として、少しでも早く自立して生きていける人間になることが重要になってきます。
最近、多くの企業で若者の柔軟な発想が我が社には必要だと求めるように、この時の宮崎駿監督はそうすけのような子供たちが両親たちのような大人と同等の立ち位置で物事を考えられるようになってほしいという願いをそうすけの人物像に込めたのではないでしょうか。
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まとめ・考察
『崖の上のポニョ』という作品で、そうすけという5歳の少年がなぜ両親を呼び捨てで呼んでいるのかという疑問に対して、そうすけのような子供たちに大人と同じ立場で物事を考えられるようになってほしいという宮崎駿監督の願いから来ていて、その願いをそうすけの実の母親であるリサに託していると結論付けました。
このことを別の視点から見ると、子供も大人も同じ一人の人間で対等であるべきという考え方をすることができます。一見かわいげのあるほっこりとした作品かと思いきや、宮崎駿監督としてはかなり挑戦的な作品の作り方をしたのだろうなと感じました。
今でも宮崎駿監督の当時想像していた呼び捨てで呼び合う家族の在り方のような変化は一般的にはなりませんでしたが、2008年の頃と比べると今の時代は大人も子供も関係なく、個々人に目が向けられるようになってきたと言えます。それは素直に喜ばしいことではあります。
しかし、個々人に目が向けられたが故に、成果主義の風潮が強くなりました。成果主義が主流になり始めている今、対等な立場としてすべての人を扱うという観点では少しずつ離れていっているという印象を受けます。
差別などの問題も昔からなかなか消えるものではありませんから、本当の意味ですべての人が対等な立場として生きていくにはまだまだ時間がかかりそうです。
本記事では、なぜそうすけが両親を呼び捨てにしているのかについて分析をしてきましたが、その真意がある程度見えてきたのではないでしょうか。これを機に、もう一度『崖の上のポニョ』を見返してみるとまた違った視点からこの作品を楽しむことができるでしょう!
是非、『崖の上のポニョ』を見返してみてください!